効果的にターゲットを絞ったDMを提案した結果、DMの部数が減った上に単価も上がらず、DM製作会社の売り上げが減ってしまうことを、「ターゲットマーケティングのジレンマ」と呼びたい。
部数減も単価は変わらず
ビッグデータを活用したOne to One マーケティングの隆盛により、DMは見直されているという実感が、DM業界内部からも聞こえる。ところが電通「2015年日本の広告費」によると、2015年のDM広告費は前年比97.6%の3829億円となっている。
実はこの数字には推計方法の事情があって、内訳は配送コストのみであり、DM製作費は含まれていない。とはいえ、1部あたりの配送コストが変わらないと仮定すると、DMの部数は減少していることになる。
先日あるDM製作会社から嘆き節を聞いた。せっかく顧客企業からデータを預かり、最適なタイミングで、最適なターゲットに、最適なコンテンツを送っているのに、顧客はレスポンスを見てくれず、相見積の単価だけを合わせてくれと頼まれる。その結果、ターゲットを絞るためDMの部数は減るのに、単価は変わらず、売り上げが減少しているのだという。
顧客データ分析が必要なOne to Oneマーケティングによって、営業も覚えなければならないことが大幅に増えた。効果的にDMを打つ戦略を練り、データを分析し、効果測定を行うには、データ分析やマーケティングなど幅広い知識が必要になる。そのため営業を教育する時間もコストもかかる。DM製作費にコンサルティング料を上乗せしないと割が合わないが、顧客はDM製作費の単価でしかみてくれないのが現状だ。
DMマーケティングの投資対効果(ROI)で判断し、対価を受け取れない限り、この「ターゲットマーケティングのジレンマ」に陥ってしまうだろう。
プロジェクト遂行ベースで請求する
解決策は、製作費を請求するのではなく、効果の対価を請求することだろう。例えばROIの何パーセントを達成した時に、対価を受け取るといった契約に変えるということである。達成しなかった場合のリスクは大きいが、製作会社もプロジェクトに責任を持ち、顧客も信用してプロジェクトを任せるだろう。もちろん単価競争に陥ることはない。
もう1つはプロジェクトそのものの支援を行うことである。例えば通販を行いたい食品メーカーに、通販支援を行う。その過程でウェブ構築、eメール販促、チラシ、そしてDMまでを横断的に請け負い、マーケティング支援そのものを行うのだ。請求はDM製作料ではなくプロジェクト遂行料となる。
ビッグデータの活用、デジタル印刷機により投資対効果の高いDM戦略が可能になった。きちんとその果実を顧客と分け合うには、ただ単価×数量を請求するのではなく、定量的に投資対効果を説明し、説得するシナリオが必要だろう。
(JAGAT研究調査部 光山 忠良)