*アメリカ印刷市場が約20年ぶりの成長率を達成し、急回復している。その背景にはコモディティ印刷から特化された印刷(パーソナライズ印刷など)への転換があげられる。日本も同様の状況になるのだろうか。
アメリカ印刷市場が急回復している。2014年6月から2015年9月まで16カ月連続で前年同月比越え。2015年第3四半期は前年同期比+3.6%となり、1996年第1四半期以来の高成長率となった。GDPの成長率も上回っている。 この急回復についてアメリカのコンサルタント、ジョー・ウェブ博士は印刷業界情報サイトwhattheythink?に論文を寄稿している。「経済はまごついているのに、印刷出荷額は上昇している。先に何があるのか」(Despite the Economic Muddle,Printing Shipments are Rising.What’s Ahead?)と題された寄稿には、回復の理由を概要次のように分析している。
印刷産業は主要なリストラクチュアリングを終えた。ボリュームゾーンであるパンフレット、雑誌、新聞、カタログ、新聞折込、チラシ、会報などが電子メディアに代わった。廃業やM&Aなどを逃れ、生き残った印刷会社は変化に対応し、資本を再配分している。デジタル印刷機によるパーソナライズ印刷、カスタイマイズ印刷、アップデートされた印刷や、大判プリンターによるサイネージやディスプレイに適応している。
――つまりコモディティ印刷から特化された印刷にシフトしたことで、市場の変化に対応しているとのことだ。
ウェブ博士の分析は説得力があるが、この分析に隠された事実があるように思える。激減した印刷物の事例の中に、DMが入っていないことだ。筆者もこれからより詳しく分析していきたいと思っているが、DM大国アメリカでも、日本と同様、DMがワン・トゥ・ワンマーケティングの有力な手段として再認識されているのかもしれない。Eメールやインターネット広告、さらにはSNSマーケティングの流行も一巡して、印刷メディアの有効性もあらためて認識されているとも考えられる。
なおウェブ博士は今後について、出荷額は上昇しているが利益率が横ばいであるデータをもとに、さらなる資本の再分配の余地が残されているのではないかと指摘している。経営者もデジタル世代に替わりしつつある。アメリカと同様の動きが日本でも見られるか注視したい。
(研究調査部 光山 忠良)