機能性印刷とは、「素材の上にコントロールされ、選択されたパターンで、機能性物質を堆積させる製造プロセスのこと」である。具体的にいうとセンサー、ディスプレイ、バッテリー、RFID、照明などの製造などに使われる。印刷方式はインクジェット、スクリーン、フレキソ、グラビアなどさまざまである。ローコストで大量生産できる工程として注目され、あるレポート※ 1 では「高生産電子製品製造の次の潮流になる可能性がある」としている。機能性印刷の市場は2020 年には137 億9000 万ドルになるとの予測もある。
機能性印刷は来年のdrupa2016 のハイライトテーマの一つとしても取り上げられている。機能性印刷は決して新しい技術ではない。QR コードやレンチキュラー印刷はなじみだろう。しかし、現在はタッチパネルメタル 配線からフレキシブル・ディスプレイ、はては有機体の印刷まで可能である。
主な企業としてGSI テクノロジー(アメリカ)、イーストマンコダック(同)、マークアンディ(同)、BASF SE(ドイツ)、デュポン(アメリカ)、 Kovio INK(同)などのほかに、日本の凸版印刷も挙げられている。凸版印刷は液晶ディスプレイカラーフィルターやタッチパネルなどを製造している。実に多様化した分野であり、いまだに業界リーダーといえるところはなく、急成長の可能性がある。例えば3D プリンター最大手の3D システムズも業界の1 社にすぎない。
中小企業は関係ないかといえばそうではない。例えば東京に本社を置くあるスクリーン印刷の刷版製造会社は独自の感光材技術を武器に世界中の電子機器メーカーにマスクを供給、売上高は100 億円を突破している。スクリーン印刷技術自体は最新テクノロジーではないが、独自の開発力と応用力をもってすれば、中小企業でも世界的企業に飛躍できる。インキに特定機能を発揮する成分を混ぜることにより、機能性印刷の可能性は無限に広がる。香料を混ぜれば香料印刷に、発泡剤を混ぜれば発泡印刷に、光を発する材料を混ぜれば畜光印刷になる。
複製困難な人工DNA を含有させれば、偽造防止の印刷物も作るこができる。さらに人間のDNAをインキに含有させて、インキからいつでもDNA を抽出できる少しキワモノともいえる印刷方法を開発した会社もある。自費出版物やタレントの写真集、故人の位牌などに混ぜると、付加価値が増すのだという。
機能性印刷はすでに、革新的なマーケティングツールとしても使われている。スキンケアで有名なニベアは、雑誌から紙を切り取り、子供の腕に巻けば、紙製の腕輪に付いたIC タグで位置情報を感知し、海水浴中でも迷子を防ぐことができるサービスや、雑誌の1 ページ全体が太陽電池になっており、砂浜にいてもスマホを充電できるサービスなどを考案、広告業界のコンペで賞を受賞している。
有機体の印刷、すなわちバイオプリンティングは特に注目されている技術である。2010 年には人間の血液を製造することに成功、2013 年には人間の幹細胞が製造された。今後数十年のうちに移植用の動脈や腎臓、肝臓、膵臓、心臓までが作られる可能性がある。
新しい細胞を患者に直接噴射し、傷口を直す治療まで行われるようになる。美容整形の世界も変わるだろう。 印刷会社はこの市場に対して、どのようにアプローチすべきだろうか。drupa2016の公式サイトでは「印刷はIT から医薬品業界まで、あらゆる産業を統合する役割を持つことができる」と書かれている。
またShu Chang ロチェスター工科大学教授によれば、印刷会社は、印刷の全体的な体系を知っていることが強みとなる。例えばイノベーターがコンセプトを発案した時に、コンセプトを形にできる方法を提供できる。将来的にはイノベーターにコンサルテーションするだけではない。印刷会社は自ら機能性印刷の用途開発を行いこの分野の一翼を担うことが求められるだろう。取り組むべきやりがいはある。
Shu 教授は「誰もこの技術の最大限のポテンシャルを知らない。しかし高い希望と驚くべきポテンシャルを秘めている」と話す。エコノミスト誌やニューヨークタイムズ、フォーブス誌などで取り上げられているが、エコノミスト誌は機能性印刷を「第3 の産業革命」と取り扱っている※ 2。
(『JAGAT info』2015年8月号・研究調査部 光山 忠良)
参考文献=
Functional Printing Market by Materials(Substrate, Inks),Technology(Inkjet, Screen, Flexo, Gravure),Application (Sensors, Displays, Batteries,RFID, Lighting, PV, Medical),and Geography(North America, Europe,APAC, ROW) – Global Forecasts and Analysis2013 ‒2020 (summery)※1 ,
The Next Industrial Revolution:Functional Printing※2